多焦点眼内レンズで知っていただきたいこと
多焦点眼内レンズは遠くも近くもはっきりと見えることができ、メガネ無しで見える範囲が広がることが最大のメリットです。手術をされた殆どの方は見え方に満足されていますが、一方で多焦点眼内レンズは単焦点レンズに比べいくつかのデメリットがあります。近年ではデメリットを克服したレンズもありますが、生活スタイルによっては単焦点を選択した方が生活の質が向上する可能性があります。
不適合が起きるのはどんな時か?
手術後起こる可能性がある不適合はいくつかの原因が考えられます。
●多焦点を推奨できない眼に多焦点眼内レンズを用いた場合。
●白内障によるコントラスト低下がほとんど無い眼に老視治療目的で手術をした場合。
●多焦点眼内レンズの副症状を容認できない場合。
●ご自身の期待と異なった見え方の場合。
●脳の適応が難しい場合。
不適合は十分な術前検査や適切な眼内レンズの選択、的確な説明と理解、術後経過まで考慮した正確な手術、術後のケア対応により殆ど防ぐことができます。しかし、ごく稀に努力では防げない不適合があります。多焦点眼内レンズのデメリットをご理解をしたうえで手術を行うことが大切です。
コントラスト感度の低下
コントラストとは映像のシャープさや、微妙な濃淡の事をいいます。多焦点眼内レンズは、約15%位のコントラスト感度の低下があると言われています。
下図の「A」と「B」の間ぐらいで、黒い文字が少し薄く見える、あるいは膜がかかったように見える場合があります。
通常のコントラスト 多焦点のコントラスト
コントラストが低下する原因とは?
人間のレンズ(水晶体)は、膨らんだり薄くなったり形を変えて遠くや近くにピントを合わせています。多焦点眼内レンズは眼に入ってきた光を、遠方用と近方用に振り分けます。そのため、遠方と近方の両方とも、正常よりやや少ない光で見なければいけません。これによって、コントラストが落ちてしまいます。
一方で、単焦点眼内レンズは目に入ってきた光を振り分けずに使うので、1ヶ所しかピントが合いませんが、焦点が合った距離ではコントラストが高い見え方になります。単焦点レンズで遠くに焦点が合うレンズを選択した場合、眼鏡なしで近くを見る時は多焦点眼内レンズの方がよく見えますが、単焦点眼内レンズで老眼鏡をかけた場合の方がシャープな見え方になります。多焦点眼内レンズの特性として、コントラストが低下しているので、眼鏡で矯正しても補正できない場合があります。
ハロー・グレア
ハロー・グレアは、白内障の症状として知られていますが、多焦点眼内レンズでも起こる副症状です。
多焦点眼内レンズでは、夜間にハロー・グレア現象が生じます。ハローとは光のまわりに輪がかかったように光が見える事をいい、グレアは光が花火のように見える現象です。この現象は、瞳孔が大きくなっている状態(薄暗い所、暗いところ)で生じます。このため、夜間の車の運転時に気になる方が時にいらっしゃいます。
ハロー グレア
多くの方はこの現象を感じることはあっても、生活や仕事に影響するような程度になることは少ないです。また手術後、時間が経過するに伴い気にならなくなる方がほとんどですが、時間が経過してもどうしても気になる方もいらっしゃいます。
職業がドライバーの方で特に夜間の運転が多い方は、慎重に多焦点眼内レンズをご検討されることをお勧めします。
不適合が起きる原因
多焦点が合わない目に多焦点を用いた場合(適応が不適合)
緑内障や黄斑疾患、網膜症などの眼底疾患や円錐角膜など角膜に問題がある術眼に、適応が低い目に多焦点眼内レンズを選んだ場合、期待したような性能が発揮されず、不満足に感じる可能性があります。適応が低い目でもその原因ごとに多焦点眼内レンズを選択することもできます。
白内障によるコントラスト低下がほとんど無い目に老視治療目的で手術をした場合
白内障初期の方やまだコントラスト低下が少ない眼は、術後にコントラストの低下が起きる可能性があり、昼間の明るいところでも、全体的にもやっとした、視界にワックスがかかっているような見え方(ワクシービジョン)が生じる場合があります。まだ白内障による視力低下が少ない方で多焦点眼内レンズを検討される場合は、コントラスト感度検査をしっかり行い、コントラストが良い場合は、慎重に検討する必要があります。最近では単焦点とコントラストが変わらない多焦点も増えています。
多焦点眼内レンズの副症状を認容できない場合
多焦点眼内レンズの副症状であるハロー・グレアに慣れることができない方が一部おられます。その為当院では手術の前に、選択した眼内レンズによって起きる副症状を十分に説明いたします。また、患者様のライフスタイルに合わせたレンズをご紹介いたします。
ご自身の理想とする見え方でなかった場合
白内障手術は乱視や老眼まで矯正できる精度の高い手術です。そのため、多焦点白内障手術を行えば全ての距離がくっきりと見えるといった期待をされている方が多くいます。高すぎる期待は、術後の不満の原因になることがあります。多焦点白内障手術は、遠くも近くも見えるようになる素晴らしい手術ですが、その分十分な理解が必要になります。
脳の適応(中枢適応)が難しい場合
眼でものを見ていると思いがちですが、実際は眼から送られた情報を脳が処理し物を見ています。多焦点眼内レンズの見え方には特徴があります。白内障ではない若い方の眼は、メガネやコンタクトを用いれば、見たいところがはっきりと見えますが、見たいところ以外がぼけていても気になりません。一方、多焦点眼内レンズは、常に遠くも近くもピントが合っています。脳は次第に慣れてきて、見たいところだけに意識を集中できるようになり気にならなくなります。これを中枢適応といいます。この中枢適応に時間がかかったり、最終的にできない方が稀にいらっしゃいます。
多焦点眼内レンズが適している方
●白内障の影響で視力が低下したり、かすみやぼやけなどの症状がでて日常生活に不自由になった方。
●白内障以外の眼の病気のない方。
●なるべく眼鏡から解放されたい方。
●術後のハロー・グレアなどの副症状が生じることや、新しい見え方に適応するのに数ヵ月かかる可能性があること。場合によっては眼鏡が必要になることをご理解いただける方。
多焦点眼内レンズが適していない方
●夜間の運転が多い方(タクシーやトラックやバスの運転手等)
●近見作業の多い方(デザイナー、写真家等)
●生まれつき瞳孔径の小さい方
●白内障以外(緑内障や眼底疾患等)の眼の疾患がある方。
●心配性で細かい事が気になる方
●多焦点眼内レンズのデメリットを理解していただけない方
多焦点眼内レンズをご希望されても、生活スタイルや患者様の眼の状態によっては単焦点眼内レンズをお勧めする場合もございます。予めご了承ください。
多焦点眼内レンズの紹介はこちらから